井本動物病院 井本 史夫 院長 FUMIO IMOTO
大学卒業後、サラリーマン生活を経て、動物たちの診療に携わるように。1974年、横浜市青葉区に開業。
大学卒業後、サラリーマン生活を経て、動物たちの診療に携わるように。1974年、横浜市青葉区に開業。
実家で飼っていた猫とは私が3歳の頃から一緒に育ちました。家族というか兄妹に近い感覚だったんです。私が学校に行く時は途中まで送ってくれ、学校から帰ってくる時には朝と同じ場所で迎えてくれる。母親は猫の姿が見えなくなると私が帰ってくる頃だと思っていたそうです。犬も飼ってましてね、実家の周りにはため池が多かったのでよく一緒に泳いで遊んでいました。
猫や犬と一緒に暮らす生活が普通でした。そこでいま思うとそうした環境が獣医学という分野を選ぶときのきっかけとなったのかもしれません。
ただその前に何のために大学に行くのかということが高校生の私の中で疑問でした。ただ卒業しても意味がない。行くからには何かを得るものでなければと思うようになったわけです。
獣医師を志すには大学を卒業して国家試験を受けなければなりません。少なくともその意味においては大学を卒業することに意義を見出すことが出来る。青年特有の葛藤から獣医師の卵が生まれたと言えるのかもしれません。
帯広畜産大学を卒業後、製薬会社でサラリーマンとして3年間を過ごし、その後動物病院に勤務しました。美しが丘4丁目の住宅街に最初に開院したのが1974年のことです。そちらで11年続けて現在の場所に移ってから25年。(2010年11月現在)この辺りでは1番長い動物病院ということになるのかもしれませんね。
猫や犬が楽に暮らせるためには飼い主の側に力が入っていてはダメです。ですから当院では飼い主さんが普段どのように接しておられるかということを伺い、肩の力を抜いて動物たちと付き合っていくにはどうすればよいのかということを相談します。
猫や犬の病気は彼ら単独で起こっている場合ももちろんありますが、人間が彼らと関わることで発生する病気というものも多く存在いたします。
例えば『かゆがる』という動作ひとつをとっても、本当にかゆいから身体をかく部分と、飼い主さんへのアピールがそういう行動をとらせていることがあります。彼らにしてみればアピールの手段からせざるを得なくなっている場合があるのです。頭の中に不安が生じているんです。
必要以上に吠えてみたり噛み癖がとれなかったり、問題行動と呼ばれるものの多くは人間がそれを助長させているケースが多く見られます。
この一連の疾病群を『HARD(人と動物の関係病)』と私は呼んでいます。現在の獣医学で病気の分類としてふさわしいものが見当たらず、私がそう名付けているものです。
人における生活習慣病と似ているかと思います。普段の生活、犬と人間との生活をあせらず少しずつ改善することによって人と動物の暮らしをより良いものにすることが出来るのです。
長く生きたがために、夜哭きをしたり徘徊をしたりする犬や猫が多くなりました。いわゆる動物の認知症です。隅っこにぶつかっても後ずさりが出来ない子とか、キャンキャン夜哭きをする愛犬に対して飼い主さんはどうしていいかわからない。ご近所迷惑だからと車に愛犬を乗っけて夜中運転してるなんて方もいらっしゃいました。
こうした認知症の症状に対して、睡眠導入剤等を使用し、眠らせることにより改善を見守るというのがこれまでの治療の方向でした。しかし、その方法で回復に至るケースというのは極めて少なかったのも事実です。
当院では抗酸化作用を持つサプリメントをお奨めしています。人と同じで認知症にも様々なタイプがありますが、アルツハイマー型認知症にはこのサプリメントによる改善がみられているケースが多数あります。夜哭きがなくなったりオシメがとれたりすることで多くの悩める飼い主さん、それに犬自身の精神の安定につながります。人と動物が一緒に暮らすなかで、如何にして老いと付き合っていくということが非常に大事なテーマとなってきています。
最近でこそペット可というマンションも増えましたが、かつてはアパートやマンションで犬や猫を飼うなんてことは話にもならないという時代がありました。20年(2010年現在)ほど前のことになりますが、藤が丘のマンションでそれに関する問題が起こったことがありました。私自身もこの問題に携わることで都会でペットを飼うにはどうすればよいのかという課題に向き合うことになりました。
具体的には飼い主の会をつくり、様々な苦情に対応するための窓口を設けました。知らぬふりをするのではなく、正面から受け止めることで問題に対処することを考えたのです。
1人の力で世の中を大きく変えることは出来ませんが、問題を提起してそれを変える端緒とすることは出来ます。こうした経験の一つ一つが私の仕事のモチベーションとなっているかと思っています。
人間だけの社会なんていうのは味気ないものです。人と動物が幸せに暮らせる社会を目指し、その手助けとなるべく励んでいきたいと思っています。
犬や猫はどちらかというとドテッと気楽に暮らしたいんです。彼らにあまりプレッシャーをかけても仕方がありません。まず、飼い主の方が肩に力を入れずにゆったりと気を楽にもって過ごされることをおすすめします。とはいっても日々の健康チェックは必要です。身体のチェックだけでなく、動きのチェックと飼い主さんとの関係性のチェックも必要です。何か気になることがあれば、1人で悩まず何でもお気軽に相談しにいらっしゃっていただきたいと思います。
※上記記事は2010.12に取材したものです。
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